「体験価値」にこだわる。小売企業に必要な差別化戦略

この記事では、ゲーミングモニターブランド「Pixio(ピクシオ)」が、商品機能や価格競争から脱却し、顧客に”体験価値”を提供することで潜在需要を掘り起こした事例を紹介します。
販売する商品に付加価値をつけることで差別化を図り、顧客の支持を獲得できたPixioの取り組みは、商品の仕入れや販売に悩む小売企業の皆さまにとって参考になる情報でしょう。

小売企業に必要な戦略

小売企業にとって、商品の機能や価格だけで商売をすることは、激しい競争の中で生き残るための致命的な落とし穴になりかねません。
こうした企業は、顧客との絆を深めることができず、単なる取引の場に過ぎなくなってしまいます。
商品の機能と価格だけに頼る小売企業は、同業他社との差別化が困難です。機能や価格があまり変わらない商品を扱っていると、顧客に選ばれる理由がありません。結果として、安売り合戦に巻き込まれ、収益が圧迫されてしまいます。
顧客の心に残る体験を提供することもできません。単に商品を売買するだけでは、顧客は物足りなさを感じてしまいます。特別な思い出や感動があれば、顧客は喜んで店に足を運び、リピート購入につながります。


さらに、ブランドロイヤリティを構築するのが難しくなります。商品の機能や価格だけでは、顧客の支持を得ることはできません。ブランドに愛着がなければ、次々と新しい商品に乗り換えられてしまい、長期的な成長が望めません。
“体験価値”を提供し続けなければ、企業は停滞し、やがては衰退に向かってしまうでしょう。
このように、商品の機能と価格だけに依存する小売企業は、顧客との絆を深められず、ブランド力を高めることができません。結果として、長期的な成長と収益性の確保が難しくなってしまうのです。
企業は商品を超えた付加価値を提供し、顧客の心に残る体験を創り出さなければなりません。そうすれば、顧客はただの「買い手」ではなく、ブランドの支持者となり、長期的な成功につながるでしょう。
商品の機能や価格だけでは勝ち残れない

ゲーミングモニター市場は過熱した価格競争の最中にあります。中国ブランドの参入により、安価な製品があふれ、単なる機能面やスペック、価格では勝負できなくなってきました。
実際、ゲーミングモニターブランド「Pixio(ピクシオ)」も当初は価格の安さがその最大の強みでした。
しかし、価格勝負の戦略に限界を感じていました。同様の安価品が乱立し、価格競争に勝ち残ることは極めて難しくなってきたのです。
機能面だけでは十分な訴求力がなく、価格競争に陥ってしまう、この課題を何とかしなければならない状況でした。
ユーザーインサイトを突き止め、潜在需要を掘り起こす

Pixioは、ユーザーインサイトの掘り起こしに着手します。YouTubeやXなどSNSで、ゲーマーのデスク周りの動画を分析したところ、女性を中心に「デスク周りはホワイトカラーで統一しているのに、モニターだけが浮いている」という違和感を抱くユーザーが多くいることが分かりました。
ゲーマーの中には、デスク周りの空間コーディネートにこだわる層がたくさんいることがわかりました。しかし、周りの環境はホワイトカラーでまとめられているのに、モニターが黒色一択だと浮いてしまう、ここに潜在需要があるのではと考えました。
Pixioはこの課題を打破するため、単なる機能や価格ではなく、ユーザーの”体験価値”に焦点を当てる販売戦略を採用しました。
「ゲーミングモニターを購入することで、どのような生活体験が得られるのか」をストーリー性を持って伝えることで、他社との明確な差別化を図ったのです。
他社が行なっていない施策を展開

Pixioは、ゲーミングモニターでは他社が行なっていないカラーバリエーション展開を行うことにしました。
ホワイトやパステルカラーなど、複数色のラインナップを投入。こうした施策は、ゲーミングモニター業界ではあまり行われていませんでした。
カラーバリエーションの施策は的中し、ゲーマーの間で大ヒットとなりました。特に女性ユーザーから高い支持を得ることができました。
つまり、Pixioは空間コーディネートにこだわるユーザーの潜在需要を的確に捉え、新たな需要を掘り起こすことに成功したのです。
ユーザーインサイトとデータに基づいた仮説構築と検証を繰り返し、ユーザーの本当のニーズを見つけ出すことができました。
売り方自体を差別化し、「体験価値」を訴求する

Pixioは、さらに、ゲーミングモニターの売り方自体を根本から見直しました。従来のゲーミングモニターは、その性能や機能、スペックを前面に押し出す販売方法が一般的でした。
しかし、Pixioは、カラーモニターが生み出す空間コーディネートの”体験価値”にフォーカスした販売方法を採用しました。
モニター単体の写真ではなく、カラーモニターを取り入れた理想的な空間の写真を多数使い、美しいゲーミング環境を提案しました。
また、実際にPixioのモニターを使ったユーザーによる口コミ動画なども活用し、モニターを購入することで得られる豊かな生活体験をストーリー性をもって伝えていきました。
スペックの説明はもちろん大切ですが、そこにプラスアルファの価値を提供できれば、ユーザーからの支持が得られると考えています。商品があることで、一人一人のお客様の生活体験がどれだけ豊かになるのか、ストーリー性を持って伝えることが重要だと考えています。
こうした取り組みにより、Pixioはスペックや価格だけでない圧倒的な差別化とブランド構築を行い、ゲーミングモニターという製品自体に新たな価値、新たなブランド体験を生み出したのです。
「体験価値」訴求がうまくいった具体的な取り組み

1. ユーザーの潜在需要を発見
Pixioはゲーマーのデスク周りの動画などを分析し、空間のコーディネートにこだわるユーザーが多いことに気づきました。しかし、デスクの周りは白やパステルカラーでまとめられているのに対し、モニターだけが黒といった違和感がありました。
2. ニーズに応える商品開発
この潜在需要を捉え、Pixioは同社初のカラーバリエーション展開として、ホワイトやパステルカラーのゲーミングモニターを投入。ゲーマーの間で話題となり、大ヒットしました。
3. 「空間コーディネート」の体験価値を訴求
Pixioの商品ページでは、単なるスペック紹介にとどまらず、カラーバリエーションのあるモニターを上手に取り入れたデスク周りの写真を多数掲載。自分好みにコーディネートした空間で、快適なゲーミング体験が得られることを強くアピールしました。
4. ユーザー投稿コンテンツの活用
実際にPixioのモニターを使ったユーザーが投稿した空間写真や口コミ動画を商品ページに取り入れることで、”体験価値”の想起力を高めました。
Pixioの成功の根幹には、「ユーザー目線」と「ユーザー参加」の2つがあります。
ユーザーの潜在需要の発見と、ユーザー体験の向上に着目し、実際の使用シーンを想起しやすいコンテンツを作成し、訴求していきました。
こうした取り組みにより、Pixioは単なる製品説明に留まらない、”体験価値”を訴求できる優位性を持つことができました。
「体験価値」のデザイン

Pixioはさらに、ゲーミングデスクやチェアなど、関連製品の開発を視野に入れています。そしてゲーミング空間全体をコーディネートできるトータルブランドを目指しています。
ゲーミング体験の質を高めるために、ゲーミングデスクやチェア、キーボード、マウスなど、ブランドを「ゲーミング空間づくり」の総合ブランドへと成長させ、競合に無い差別的優位性をさらに高めていく考えです。
こうした動きを見ると、Pixioは単なるゲーミングモニター販売を志向してはおらず、本物の”ゲーミング空間体験”を提供することで、あらゆるライバルとの差別化を図っていると言えるでしょう。
本来の”体験価値”を訴求することで、ライバルに真に打ち勝つ。Pixioはその最たる事例と言えそうです。単に性能やスペック、価格で競り合うのではなく、実際の使用体験を想像できる”体験”そのものをデザインし、人々の心に響く新たな価値を生み出す。
この動きは現代の商品販売において非常に重要であり、他の多くの業界にも示唆に富む挑戦といえるのではないでしょうか。
ストーリー性のあるブランディングこそが、ユーザーの共感とロイヤリティを獲得する鍵なのです。Pixioの取り組みは、そのあり方を示す先駆的なケーススタディと言えるでしょう。