「仕入れ販売の難しさ」変革の時代の雑貨業界に潜む課題

雑貨業界は常に変化し続ける市場です。10年前、大手チェーンの専門店との取引があった時代から、業界は大きく変わりました。
最大の変化は、店舗での発注権限の喪失です。かつては各店舗に「目利き」と呼ばれるバイヤーがいました。彼ら彼女らは商品を見て、その価値や面白さを判断し、店舗に合った商品を選んでいました。
しかし、大手チェーンの業績悪化に伴い、発注業務が本部に集中するようになり、店舗のバイヤーは自分で商品を選び、レイアウトやディスプレイを考える仕事がなくなりました。
雑貨業界は給料がそこまで高くないのですが、商品への愛と「面白い」という感覚があったからこそ、多くのバイヤーが働いていました。本部マターの仕入れ販売に変化したことで、単なる低賃金の仕事になってしまい、優秀なバイヤーが業界を去っていったのです。
仕入れ販売の変化

仕入れ販売の変化に伴い、大手チェーンはキャラクター商品に頼るようになりました。サンリオのキティちゃんやディズニーキャラクターなど、知名度の高いキャラクターを中心に売り場を作れば、誰でも管理できるからです。
しかし、この戦略には大きな落とし穴があります。キャラクターの人気が落ちると、その売り場全体が苦しくなるのです。
一方で、コアなファンは常にいるため、東京駅のキャラクターストリートのような専門店は生き残れます。ただし、一般の雑貨店では、キャラクター頼みは危険です。初めは簡単ですが、長期的には不安定なのです。
流行りものの罠

雑貨業界のもう一つの罠は、流行りものです。ハンドスピナーのようなブーム商品は爆発的に売れますが、すぐに100均に並び、在庫を抱えて損失を出すリスクがあります。
むしろ理想は、「3割バッター」と呼ばれる商品です。華々しくは売れませんが、知らないうちに売れ続ける商品です。これが商売の「ごはん(主食)」、つまり基盤になります。そして、時々の流行りもの(「おかず」)で売上を伸ばすのが賢明です。
仕入れ販売の難しさは、常に新商品を探し続けなければならないことです。SNSなどで情報収集し、展示会で次の流行りそうな商品を見つけます。
しかし、見つけた商品が必ず売れるわけではありません。さらに、人気商品は供給が追いつかず、需要が落ち始めたころにようやく仕入れられるという皮肉な状況もあります。
価格競争の罠と生き残りの秘策「独自ルートの開拓」

韓国コスメブームの例は、価格競争の危険性を示しています。人気絶頂時は高値でも売れましたが、やがて仕入れ価格と変わらない値段で販売される商品が出てきました。
仕入れ販売は価格をコントロールできないため、100均やシリーズ店との価格競争に巻き込まれると、勝ち目がありません。
このような困難な中、「何でも屋さん」の精神で生き残ってきたのが株式会社Rです。
現在はアクセサリーを中心に扱い、独自の仕入れルートを持っています。
通常、海外からの輸入はドル建てですが、独自ルートを持っている株式会社Rは中国から元建てで仕入れています。元は中国政府がコントロールしているため、為替変動の影響を受けにくく、安定した原価を維持できます。
さらに、日本円で支払えるエージェントを見つけ、為替リスクを最小限に抑えています。海外送金もペイオニアを使い、円建てで3%の手数料で済ませています。かつては商社を通すと10%の手数料がかかり、最低100万円の取引が必要でした。
しかし、個人でのネット販売が増えた今、そういった障壁は低くなっています。
3割バッターと流行りもの

雑貨業界での仕入れ販売は、常に変化する市場、価格競争、在庫リスクなど、多くの困難と隣り合わせです。
しかし、独自のルートを開拓し、為替リスクを抑える工夫をすれば、生き残る道はあります。「3割バッター」の安定商品を基盤に、時々の流行りものを上手く取り入れる。
そして何より、業界の変化に敏感に反応し、柔軟に戦略を変えていく。これが雑貨業界で長く生き残る秘訣なのです。
ストーリー性のある商品で消費者の心をつかむ!「物語」と「体験」の時代

単なる商品ではなく、その背景にある物語、ブランドのバックボーンを含めて価値を判断するのです。この変化は、雑貨業界に新たな課題をもたらしています。
物語を買う若者たち

今の若者は、同じようなロゴが入っているだけの服でも、インスタグラムなどでカッコよく見せられていれば、高価格でも購入します。彼らが求めるのは単なる商品ではなく、それに付随する物語なのです。
例えば、作り手がカッコいい、使っている人が憧れの存在だ、といった背景があれば、商品の魅力は何倍にも膨らみます。
21歳の男性がジェルネイルをするなど、若い男性のファッションやビューティーへの関心も高まっています。彼らは安価な商品も買いますが、同時に「作っている人がカッコいい」という理由で高価な商品も購入します。つまり、物語があれば、ロゴを乗せただけの商品でも高価格で売れるのです。
一方、物語のない商品は安価でなければ売れません。ここに雑貨業界の苦悩があります。物語を作る創造力も、大量生産で圧倒的に安く作る力もない中小企業は、この新しい消費傾向に苦しんでいます。
ストーリー性のある商品の難しさ

では、ストーリー性のある商品を仕入れて売ればいいのでしょうか。しかし、それも簡単ではありません。想いのある商品を作る人は、その想いを理解してくれる人に売りたいと考えます。単に利益を求める仕入れ業者には、そういった商品を任せたくないのです。
例えば、廃棄処分の野菜を使ってクレヨンを作るシングルマザーの話が最近話題になりました。彼女の物語に共感する人が増え、ビジネスとして成功しました。しかし、全ての商品がこのようなストーリーを持つわけではありません。商売の軸足をどこに置くべきか、その判断が難しいのです。
仕入れ販売の甘い罠

では、なぜ仕入れ販売を始めるのでしょうか。その答えは「リスクの少なさ」です。自社製品を作ると、在庫リスクや失敗のリスクが高くなります。
その苦しい経験から、一時的に仕入れ販売に逃げ込んだ企業もあります。しかし、仕入れだけでは十分な利益が出ません。結局、自社製品の開発に軸足を戻すことになります。
一方、個人規模の若い起業家は増えています。彼らはストーリーを作り、希少性のある商品を販売し、共感してくれる人から収入を得ています。しかし、組織としての企業は、リスクを避けがちで、なかなか大胆な戦略に踏み切れません。
変わる消費者ニーズ

スマートフォンアクセサリーが爆発的に売れていた時代、仕入れ商品だけで成功できると思われていました。しかし、消費者の関心はアクセサリーから端末内のコンテンツやアプリへと移りました。「外側」よりも「中身」が重視されるようになったのです。
このような変化の中、仕入れ商品だけでビジネスを続けていくことは非常に厳しくなっています。買い手が求めるのは低価格です。さらに、中国のファストファッションEコマース「SHEIN」のような巨大プレイヤーの登場により、日本の消費が海外に流れています。
今後5年で、雑貨店の半分が縮小するかもしれません。
オリジナル商品と体験提供で生き残る

では、どうすれば生き残れるのでしょうか。答えは「オリジナル商品」と「体験提供」です。
他社の参入障壁が高いオリジナル商品を持てば、そのマーケットを独占できます。逆に、誰でも参入できるマーケットは、100均や300均のような低価格店に市場を奪われます。
Z世代は、お金をかけるべきところにはしっかりとお金をかけます。彼らにとって、モノを買うことは単なる消費ではなく、体験なのです。その体験を提供できるかどうかが重要です。
例えば、化粧品業界では、インフルエンサーの情報発信が購買に大きな影響を与えています。かつては「説明のいる」商品は売れないと言われましたが、今はその「説明」自体が動画などで魅力的に提供されます。
コンシーラーは良い例です。団塊世代はシミを隠すアイテムとして使っていましたが、Z世代は顔の立体感を出すために使います。その使い方を動画で学べるため、コンシーラーはマストアイテムになりました。このように、使い方や使った後の生活イメージが沸きやすい商品は、高い価格でも売れるのです。
物語と体験の力

雑貨業界は大きな転換点にあります。単なる商品ではなく、物語と体験を提供する必要があります。仕入れ販売だけでは難しく、オリジナル商品の開発が求められます。しかし、それだけでは不十分です。
商品に物語を付与し、その使い方や効果をインフルエンサーや動画を通じて魅力的に伝える。そして、購買を単なる消費ではなく、価値ある体験として提供する。
これは簡単ではありません。創造力、マーケティング力、そして何より消費者への深い理解が必要です。しかし、この変化に適応できた企業だけが、激変する雑貨業界で生き残ることができるでしょう。
「物語」と「体験」を売る時代、それは危機であると同時に、新たな成功の機会でもあるのです。
(本記事は株式会社R様協力のもと制作しております)
仕入れ担当者の第一線から見えてくる経験と勘の世界

動画時代の商品情報

現代の消費者、特にZ世代は動画から情報を得ます。商品の使い方、見せ方、そして生活の中でどう輝くのかを、瞬時に理解できるからです。テキストや画像は、強烈な見出しや魅力的なコピーがない限り、読まれません。動画は情報処理の手間を省き、イメージを直接伝えます。
例えば、キッチン用品の乾燥ラックの場合、テキストでは「お皿8枚、コップ何個」と読み解く必要がありますが、動画なら一瞬で理解できます。白Tシャツも、単体では魅力がありませんが、コーディネート動画で「かわいい」と思えば購入につながります。
この変化は、広告費の高騰と相まって、仕入れ担当者に新たな課題を突きつけます。SNSの動向を常に監視し、流行の兆しを見逃さないことが求められるのです。
SNSの罠と展示会の限界

しかし、SNSで話題になった商品を仕入れても、すでに手遅れかもしれません。マスコミが取り上げた時点で、ブームは終わりかけています。「だんご3兄弟」の雑貨は、大量生産されたものの特価品の山となりました。
一方、展示会も新商品発掘の場としては限界があります。大企業のブースや人気ブースには「うま味」がありません。むしろ、小さな「1コマ」のブースに面白い商品が隠れていることがあります。しかし、これも稀です。結局、仕入れ担当者は自分の経験と勘に頼らざるを得ません。
仕入れ担当者の経験と勘の力

経験豊富な仕入れ担当者は、メーカーの動向から流行の兆しを読み取ります。例えば、多くのメーカーが突然「カキ(牡蠣)」のグッズを案内し始めたら、それは何かの情報を掴んでいる証拠です。メーカーは血眼になって情報を集めているのです。
しかし、経験と勘も時に裏切られます。コロナ禍でマスクを大量仕入れ、数千万の売上を上げた企業も、欲を出して仕入れ続けたら大量の不動在庫を抱えました。「止め時」を見極めるのも、仕入れ担当者の仕事です。
隠れた人気商品

一方、マスメディアや SNS では目立たないのに、じわじわと人気を集める商品もあります。例えば、子供向けのお菓子「セボンスター」は、おまけのアクセサリーがコレクション性を持ち、長年売れ続けています。
北海道の鳥「シマエナガ」のグッズも同様です。10年前からじわじわと人気が高まり、今やブームです。北海道の固有種を扱うグッズは意外と売れるのです。実際、百貨店の一角に「北海道館」が常設されるようになりました。
しかし、ブームになると終わりも近いのです。シマエナガのグッズも、今後は人気が下火になる可能性があります。
仕入れの秘訣

優秀な仕入れ担当者は、商品自体だけでなく「売り方」までイメージできなければ仕入れません。また、「空気を売らない」という原則があります。ぬいぐるみや傘など大きな商品は送料がかさみます。同じ送料なら、100個送れる商品と5個しか送れない商品では、前者の方が有利です。
理想は、特定のターゲットにファンを持つ複数のブランドを展開すること。不特定多数に広めるのではなく、コアなファンを持つブランドの方が長続きします。
仕入れの芸術

雑貨の仕入れは、データと勘のバランスを取る芸術です。SNSや展示会の情報は重要ですが、それだけでは不十分です。経験豊富な仕入れ担当者は、メーカーの動きや隠れた人気商品を見逃しません。
しかし、最大の難しさは「止め時」を見極めることです。ブームに乗り遅れず、かといって欲に目がくらまず、次の流行を探し続ける。これが仕入れの真髄です。
こうした中、エンサーモールには新たな可能性があります。「今から流行りそう」な商品ランキングを提供できれば、仕入れ担当者の強力な味方になれます。ただし、予測が外れるリスクもあります。
エンサーモールのような新しいプラットフォームが、この難しい仕事を支援できる可能性があります。仕入れの未来は、テクノロジーと人間の勘の絶妙なバランスにあるのかもしれません。
(本記事は株式会社R様協力のもと制作しております)